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【5杯目】酸味は、悪者なのか?

更新日:1月26日

■ 蔵三(くらぞう)

江戸時代の終わり頃、栃木県栃木市で生まれた喋る猫。明治の文明開化の折に初めて珈琲を口にし、その美味しさに感激して喋れるようになった。それ以来、珈琲の魅力に取り憑かれ、豆・焙煎・淹れ方まで何でも知っている。落ち着いた古風な口調で、珈琲のことを優しく教えてくれる。


■ 美里(みさと)

栃木市に住む20代のOL。仕事に少し疲れ気味だったある日、喋る猫の蔵三と出会い、珈琲の美味しさと、珈琲のある暮らしを知る。一杯の珈琲で気持ちが前向きになることを実感し、今では「もっと珈琲を知りたい」と蔵三に教わっている。


Illustration by 小日向真芽 様

 


前回のお話はこちら▶「浅煎り・深煎りって、何が違うの?


蔵の猫、珈琲の時間。

5杯目


酸味は、悪者なのか?


夕方、仕事から戻った美里は、 少しだけ疲れた顔でソファに腰を下ろした。

いつものように珈琲を淹れようとして、 ふと、前に買った浅煎りの豆に手が止まる。


美里 「蔵三…… 正直に聞いていい?」

蔵三は、窓辺で丸くなったまま、片目だけ開けた。

蔵三 「うむ。 珈琲の話なら、遠慮はいらぬ」


「酸っぱい珈琲」は失敗なの?

美里 「浅煎りってさ、 “酸っぱい”って言われること、あるよね」

蔵三 「あるな。 そして、その言葉で嫌われることも多い」

美里 「私も前は、 酸味=失敗、って思ってた」

蔵三は、ゆっくりと体を起こした。

蔵三 「まず覚えておくとよい。 酸味そのものは、悪者ではない


酸味には、種類がある

蔵三 「一口に酸味と言っても、 実は、いくつかの顔があるのじゃ」

美里 「顔?」

蔵三 「レモンのような、きゅっとした酸。 りんごやベリーのような、やさしい酸。 それらは、豆が持つ“果実の名残”である」

美里 「言われてみると…… 嫌な酸っぱさじゃないかも」

蔵三 「問題になるのはな、 雑味や未熟さから出る“荒い酸”なのじゃ」


なぜ酸味が出るのか

美里 「じゃあ、酸味が強くなるのは、 焙煎のせい?」

蔵三 「浅煎りでは、 豆が持つ酸がそのまま残りやすい。 深煎りになるほど、酸はやわらぎ、 苦味が前に出る」

美里 「なるほど…… 酸味って、消すものじゃなくて、 残すか、包むか、なんだね」

蔵三 「うむ。 焙煎とは、豆の声をどう扱うか、という仕事である」


美里の中の「苦手」が変わる

美里は、意を決して浅煎りの豆を挽いた。

立ち上る香りを、前より少し丁寧に感じる。

美里 「……前より、怖くない」

蔵三 「それはな、 “酸味を知ろうとした”からじゃ」

一口飲んで、美里は目を瞬いた。

美里 「あ、これ…… 嫌いじゃない」


酸味は、元気な証でもある

蔵三 「良質な酸味は、 珈琲に明るさを与える

美里 「明るさ?」

蔵三 「朝の光のようなものじゃ。 重くなりすぎず、 気持ちを少し前に向かせる」

美里は、少し背筋を伸ばした。


次は、もう一つの誤解へ

美里 「じゃあさ…… 苦味って、どうして“珈琲らしい”って言われるの?」

蔵三は、ふっと小さく笑った。

蔵三 「それは、 長い付き合いの話になるな」



■蔵三からのひとことまとめ


・酸味そのものは、悪いものではない

・良い酸味は、果実のような明るさを持つ

・浅煎りでは酸味が残りやすい

・深煎りでは酸味がやわらぎ、苦味が前に出る

・酸味を知ると、珈琲の幅が広がる


蔵三 「苦手だと思っていた味が、 ある日、味方になることもある。 珈琲とは、そういう飲み物なのじゃ」


今日の一杯が、 あなたの暮らしにそっと寄り添いますように。


次回は、苦味の正体

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