【9杯目】お湯の注ぎ方で、何が変わる?
- 店主・油屋

- 1月26日
- 読了時間: 3分

■ 蔵三(くらぞう)
江戸時代の終わり頃、栃木県栃木市で生まれた喋る猫。明治の文明開化の折に初めて珈琲を口にし、その美味しさに感激して喋れるようになった。それ以来、珈琲の魅力に取り憑かれ、豆・焙煎・淹れ方まで何でも知っている。落ち着いた古風な口調で、珈琲のことを優しく教えてくれる。

■ 美里(みさと)
栃木市に住む20代のOL。仕事に少し疲れ気味だったある日、喋る猫の蔵三と出会い、珈琲の美味しさと、珈琲のある暮らしを知る。一杯の珈琲で気持ちが前向きになることを実感し、今では「もっと珈琲を知りたい」と蔵三に教わっている。
Illustration by 小日向真芽 様
最初のお話はこちら▶「はじめに」
前回のお話はこちら▶「お湯の温度で味が変わる話」
蔵の猫、珈琲の時間。
9杯目
お湯の注ぎ方で、何が変わる?
ポタ、ポタ、と静かな音が台所に落ちる。
美里はドリッパーの上から、慎重にお湯を注いでいた。
美里「……蔵三。これ、注ぎ方ひとつでそんなに変わるもの?」

蔵三は、少し離れたところからその様子をじっと見ている。
蔵三「変わる。じゃが、構えるほどの話ではない」
注ぎ方は、豆との会話
蔵三「お湯を注ぐというのはな、豆から何を引き出すか、その“順番”を決めることじゃ」
美里「順番?」
蔵三「最初に出るのは、香りや軽い酸味。後から、コクや苦味が出てくる」
美里は、少しだけ手を止めた。
最初は、少なめに
蔵三「まずは、粉全体が湿るくらい、少量のお湯を注ぐ」
美里「あ、これが“蒸らし”?」
蔵三「うむ。豆が目を覚ます時間じゃ」
ふわっと、一段と香りが立ち上がる。
美里「ほんとだ……急に、匂いが変わった」

一気に注がなくていい
美里「じゃあ、そのあと一気に入れた方がいい?」
蔵三は、ゆっくり首を振った。

蔵三「慌てる必要はない。小分けに、落ち着いてでよい」
美里「なんか、珈琲に話しかけてるみたい」
蔵三「実際、そういうものかもしれんな」
中心から、くるくると
蔵三「注ぐ場所は、真ん中から外へ、小さく円を描くように」
美里「端っこは?」
蔵三「無理に狙わなくてよい。お湯は、自然に広がる」
美里は、少し肩の力を抜いた。
正解は、ひとつじゃない
美里「動画とか見ると、みんな違うやり方してるよね」
蔵三「それでよいのじゃ。注ぎ方は、味の“微調整”にすぎぬ」
美里「じゃあ、失敗ってあんまりない?」
蔵三「大失敗は、ほとんど起きぬ」

美里が気づいた変化
カップに落ちる最後の一滴。美里は、そっと口をつけた。

美里「……前より、角がない感じがする」
蔵三「それはな、急がなかったからじゃ」
美里「注ぎ方って、性格出るね」
蔵三「ははは。珈琲は、嘘をつかぬ」
美里「ねえ蔵三。毎回ちゃんと淹れなくても、美味しく飲む方法ってある?」
蔵三は、しっぽを一度だけ揺らした。
蔵三「もちろんじゃ。次は、“忙しい日の珈琲”の話じゃな」
■蔵三からのひとことまとめ
注ぎ方は、味の出る順番を整えるもの
最初は少量のお湯で、豆を蒸らす
お湯は一気に注がず、落ち着いて
中心から円を描くように注ぐ
注ぎ方に、絶対の正解はない
蔵三「丁寧に淹れることと、力を入れることは、別なのじゃ」
今日の一杯が、 あなたの暮らしにそっと寄り添いますように。
次回は、「忙しい日でも、美味しく飲む方法」

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