【10杯目】忙しい日でも、美味しく飲む方法
- 店主・油屋

- 1月26日
- 読了時間: 3分

■ 蔵三(くらぞう)
江戸時代の終わり頃、栃木県栃木市で生まれた喋る猫。明治の文明開化の折に初めて珈琲を口にし、その美味しさに感激して喋れるようになった。それ以来、珈琲の魅力に取り憑かれ、豆・焙煎・淹れ方まで何でも知っている。落ち着いた古風な口調で、珈琲のことを優しく教えてくれる。

■ 美里(みさと)
栃木市に住む20代のOL。仕事に少し疲れ気味だったある日、喋る猫の蔵三と出会い、珈琲の美味しさと、珈琲のある暮らしを知る。一杯の珈琲で気持ちが前向きになることを実感し、今では「もっと珈琲を知りたい」と蔵三に教わっている。
Illustration by 小日向真芽 様
最初のお話はこちら▶「はじめに」
前回のお話はこちら▶「お湯の注ぎ方で、何が変わる?」
蔵の猫、珈琲の時間。
10杯目
忙しい日でも、美味しく飲む方法
朝、目覚ましが鳴る前に目が覚めた。美里は布団の中で、今日の予定を思い出して小さく息を吐く。
――今日は、忙しい。

キッチンに立ち、珈琲の袋を手に取ったものの、一瞬だけ、迷った。
美里「今日は……ちゃんと淹れなくても、いいかな」
その声に、蔵三が静かに答える。
蔵三「“ちゃんと”とは、どういう意味じゃ?」
忙しい日は、手を抜いていい
美里「豆を挽いて、お湯の温度見て、ゆっくり注いで……正直、今日は余裕がなくて」
蔵三は、否定も肯定もせず、ただうなずいた。

蔵三「そういう日も、ある」
美里「手を抜いたら、珈琲に失礼かなって、ちょっと思って」
蔵三「失礼など、ない。珈琲は、寄り添うものであって、試すものではないのじゃ」
粉でも、十分美味しい
蔵三「忙しい日は、あらかじめ挽いた粉を使えばよい」
美里「でも、挽きたての方が……」
蔵三「“最高”でなくとも、“十分”であればよい」
美里は、少し肩の力が抜けた。
道具も、最小限でいい
美里「サーバーも、使わなくてもいい?」
蔵三「もちろんじゃ。マグカップに直接淹れてもよい」
美里「え、そんなのあり?」
蔵三「忙しい朝に、洗い物が増える方が、よほど罪じゃ」
美里は思わず笑った。

大事なのは、「飲む」と決めること
お湯を注ぎ、少し待って、ゆっくり一口。
美里「……ちゃんと、珈琲だ」
蔵三「そうじゃ。形はどうあれ、一杯と向き合えば、それでよい」
美里「前は、“余裕がある人の飲み物”だと思ってた」
蔵三「今は?」
美里「余裕がない時こそ、必要なものかも」

珈琲は、生活の味方
蔵三は、窓から差し込む光を見つめた。
蔵三「完璧な淹れ方は、毎日できなくてよい」
美里「うん」
蔵三「じゃが、“今日は飲もう”と決めることは、できる日が多い」
美里は、カップを持ったまま深く息を吸った。
美里「ここまで教わってきて、やっと分かった気がする」
蔵三「何をじゃ?」
美里「珈琲って、上手くなるためのものじゃなくて、続けるためのものなんだね」
蔵三は、何も言わず、ただ目を細めた。

■蔵三からのひとことまとめ
忙しい日は、無理に丁寧にしなくていい
挽いた粉でも、十分美味しい
道具は最小限で問題ない
大切なのは「一杯飲む」と決めること
珈琲は、生活の味方である
蔵三「珈琲は、暮らしの中でこそ、意味を持つ」
今日の一杯が、 あなたの暮らしにそっと寄り添いますように。
次回からは、蔵三のルーツに迫ります。
11話は、「川の町で、珈琲は待っていた」
コメント