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【7杯目】挽きたてが美味しい理由

■ 蔵三(くらぞう)

江戸時代の終わり頃、栃木県栃木市で生まれた喋る猫。明治の文明開化の折に初めて珈琲を口にし、その美味しさに感激して喋れるようになった。それ以来、珈琲の魅力に取り憑かれ、豆・焙煎・淹れ方まで何でも知っている。落ち着いた古風な口調で、珈琲のことを優しく教えてくれる。


■ 美里(みさと)

栃木市に住む20代のOL。仕事に少し疲れ気味だったある日、喋る猫の蔵三と出会い、珈琲の美味しさと、珈琲のある暮らしを知る。一杯の珈琲で気持ちが前向きになることを実感し、今では「もっと珈琲を知りたい」と蔵三に教わっている。


Illustration by 小日向真芽 様

 

最初のお話はこちら▶「はじめに

前回のお話はこちら▶「苦みの正体


蔵の猫、珈琲の時間。

7杯目


挽きたてが美味しい理由



朝の台所に、コリコリと小さな音が響いた。

美里はミルを回しながら、思わず笑ってしまう。

美里「なんか……この時間、好きかも」

蔵三は足元で丸くなり、耳だけこちらに向けている。

蔵三「音も香りも、珈琲の準備は五感を使うからな」


挽くと、珈琲は急に動き出す

美里「でもさ、どうして“挽きたてがいい”って言われるの?」

蔵三「それはな、挽いた瞬間から、珈琲は変わり始めるからじゃ」

美里「変わる?」

蔵三「豆の中に閉じ込められていた香りが、一気に外へ逃げていく」

ミルを回すたび、ふわりと立ち上がる香り。

蔵三「この香りこそ、挽きたてのご褒美である」



粉になると、空気に触れる

美里「豆のままだと、そんなに変わらないの?」

蔵三「うむ。豆は殻に守られておるが、粉になると一気に空気に触れる」

美里「だから、時間が経つと味が落ちるんだ」

蔵三「そうじゃ。香りも、鮮度も、少しずつ外へ逃げていく」



細かさも、味を左右する

美里「挽き方の細かさも、関係ある?」

蔵三「もちろんじゃ。細かいほど、成分が出やすく、粗いほど、すっきりする」

美里「だから、ドリップ用とか、いろいろあるんだね」

蔵三「正解である。だが最初は、“細かすぎない”くらいで十分じゃ」



挽く時間は、気持ちを整える時間

美里は、ミルを止めて香りを吸い込んだ。

美里「挽いてる間、頭の中が静かになる」

蔵三珈琲を挽くとはな、心を今に戻す行為でもある」

美里「仕事のこと、ちょっと忘れられる」

蔵三「それでよい。珈琲は、考えるためではなく、ほどくためにある」



全部やらなくても、いい

美里「でも毎回、挽くの大変な日もありそう」

蔵三「無理をする必要はない。休日は豆、平日は粉、それでも十分じゃ」

美里「ちゃんとしなくていいんだ」

蔵三「続けることの方が、ずっと大切なのじゃ」



カップに注がれた珈琲から、また香りが立ち上る。

美里「ねえ蔵三。お湯の温度って、そんなに大事なの?」

蔵三は、しっぽをひと振りした。

蔵三「大事でないものなど、一つもない。だが――神経質になる必要もない




■蔵三からのひとことまとめ


  • 挽いた瞬間から、香りは外へ逃げていく

  • 挽きたては、香りと鮮度が豊か

  • 粉は空気に触れやすく、劣化も早い

  • 挽き目の細かさで、味の出方が変わる

  • 挽く時間は、気持ちを整える時間でもある


蔵三「完璧な一杯より、続く一杯の方が、よほど美味い」



今日の一杯が、 あなたの暮らしにそっと寄り添いますように。


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