【#聴く珈琲_春】3月の感想
- 店主・油屋

- 19 時間前
- 読了時間: 5分
今回のテーマ「はじまりの珈琲」には、過去最多となる80作品ものご応募をいただきました。回を重ねるごとに作品数が増え、同時に一つひとつの完成度も高まっていることを、強く実感しています。選考もどれも甲乙付けがたく、激戦でした。
今月は特に、「家族」を題材にした作品が多く見られました。父、母、祖父母——身近な存在との関係の中にある“はじまり”が、珈琲というモチーフと丁寧に結びついていたのが印象的です。また、春という季節性から、卒業や進学、新生活といった人生の節目を描いた作品も多く、読後に静かな余韻を残すものが数多くありました。
一方で、ファンタジーや擬人化、音や感覚にフォーカスした作品も豊かに広がり、「はじまり」というテーマの解釈の幅の広さも際立っていました。
はじまりは、必ずしも明るいものばかりではありません。終わりとともに訪れるものもあれば、後悔や喪失の中から生まれるものもある。そんな様々な“はじまり”の傍らに、そっと珈琲が寄り添っている——そんな時間を共有できた、豊かな回となりました。
▶3月の結果はコチラ「【#聴く珈琲_春】3月」

〇最優秀賞
「褐色のライン」 作:ベン様 @benakafka
何気ない日常の中にある「記憶」と「感情」を、極めて自然な筆致で描き切った作品です。
コーヒーマシンという非常に生活感のある題材を起点にしながら、それが母との関係性、そして過去から現在の記憶へと静かに繋がっていく構成が秀逸でした。特に「褐色のライン」という象徴的なモチーフが、単なる視覚的描写に留まらず、時間の蓄積や関係性の痕跡として機能している点が非常に印象的です。
派手な展開はないにも関わらず、読み終えた後に確かな温度が残る。まさに「はじまりの珈琲」というテーマを、最も静かに、そして深く体現した一作でした。
〇油屋賞
「スプリングブレンド」 作:Vox 様 @Ipuse365563
失恋をテーマに、切なく胸が締め付けられるような、非常に完成度の高い感情表現が光る作品でした。
春という季節の空気感と、「私」の気持ちの差がお見事で、ただでさえ少し苦みのあるマンデリンをゆっくりと淹れてしまったその時間の中に「私」の思考を推し量ることができ、切ない気持ちになりました。言葉選びも丁寧で、全体を通して柔らかな余韻が持続する点が印象的でした。
最初から最後まで、言葉を通して読者を惹きつけてくれる作品に感じ、油屋賞に選ばせていただきました。
〇優秀賞(順不同)
「春の温度と、忘れない一杯」 作:Hiroki 様 @Hirokipv5x
記憶の揺らぎと、それでも残る感情を丁寧に描いた作品です。
喪失や忘却という重たいテーマを扱いながらも、珈琲の温度を通して「確かに残るもの」を描いている点が非常に印象的でした。読後に静かな余韻が長く続く、完成度の高い一作です。
「春の日の思い出」 作:浜風帆 様 @HamakazeHo
新生活の不安と期待を、「浮遊」から「着地」へと変化する感覚で描いた構成が見事でした。都市の描写と心情が連動しており、春という季節の持つ曖昧さを巧みに表現しています。まさに春らしく、「浮き足立つような」気持ちは、私にもとても心当たりがあります。軽やかでありながら、芯のある作品です。
「珈琲の音」 作:紫冬湖 様 @touko_pwl3141
「音」という切り口から珈琲を描いた独自性が際立っていました。
抽出の音や生活音を通じて、記憶や感情を立ち上げる構成は非常に新鮮で、思わず声に出して読みたくなる作品でした。五感に訴える表現が印象的な一作です。
まーくんがとても可愛らしく、最後の一文も、まーくんが新一年生になる春らしさを残していて素敵でした。
「雨の日、その古びた喫茶店にて」 作:あまなす/雨茄子 様 @amanasstsymana
ファンタジーとノスタルジーが美しく融合した作品です。
「もう会えない誰か」との再会という王道のテーマを、喫茶店と珈琲というモチーフで丁寧に包み込んでいます。短いながらも、情景描写と物語のバランスが良く、読後の余韻も心地よい仕上がりでした。きっとこの作品を読む人は、珈琲を飲む間に、「私が会いたい人は誰だろう」と考えるのではないかと感じました。
「どこまでも走ろう」 作:モサク 様 @mosaku_kansui
憧れの車を前にした青年と、ディーラーとして確かな仕事をしてきた「私」の、ロマンと誇りに心動かされる作品です。 大きな買い物を前にして、珈琲の香りに緊張が和らぐ青年には、誰しも心当たりがあるのではないでしょうか。車というモチーフと珈琲の香りが、新たな人生の始動と自然に重なっています。 読後に「進み出す力」が残る、爽やかな「おわりでありはじまりでもある」を描いた一作でした。
「夜空のハンドドリップ」 作:水絹望音 様 @mizukimone12
素敵な母と息子の、時間と記憶を丁寧にすくい上げる、静かな余韻が美しい作品です。
ハンドドリップという行為が、過去と現在をつなぐ装置として巧みに機能しています。
語りすぎない余白が、読者それぞれの感情を引き出す一作でした。また、最後の夜空の表現も美しく、読後には心に温かい温度がじんわりと残ります。
「魔女と珈琲」 作:甘利桂紀 様 @shortcake0529
ファンタジー要素を取り入れながらも、日常との接続が自然で読みやすい作品です。
キャラクターと世界観のバランスが良く、物語としての楽しさと珈琲の存在感がしっかり両立しています。読み物としての完成度が高い一作でした。
おわりに
3月もたくさんの素晴らしい作品と出会えたことに、心から感謝しています。
一つひとつの物語に、それぞれの「はじまり」があり、どれも大切に感じられました。
珈琲という共通のテーマが、これほど多様な表現に広がることに驚かされます。
これからも、この場所が新しい物語と出会える場であり続けたら嬉しいです。
4月から3ヶ月間の次のシーズンは「夏」。
テーマは「夜の珈琲」です。眠れない夜、静かな深夜。暑さや孤独に寄り添う、夜のための珈琲の物語、皆さんの一杯を楽しみにしています。
サポートメンバー:Yuki様

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