【#聴く珈琲_冬】10月
珈琲を淹れて、ひと息つく。
いつもと変わらないはずの時間が、ふと特別なものに感じられることがあります。
誰かと交わす何気ない言葉。 懐かしい人を思い出すひととき。 窓の外を眺めながら、ただ静かに珈琲を味わう時間。
冬のテーマ「静かな時間。」には、そんな日常の中にある、小さくも大切な瞬間を描いていただきたいという想いを込めました。
今回も、さまざまな物語をお寄せいただき、誠にありがとうございました。
作品を読み進めながら感じたのは、静けさとは、必ずしも音がないことではないのだということです。
誰かの声があるからこそ感じられる静けさもあれば、もう聞こえなくなった声によって生まれる静けさもある。
そして、その傍らには、そっと珈琲がありました。
どの作品にも、書き手の皆さまが見つけた、それぞれの「静かな時間」が息づいていました。
それでは、今回の受賞作品を発表いたします。
▶10月の結果はコチラ「【#聴く珈琲_冬】10月」

〇最優秀賞
「雪降る音」 作:浜風帆 様
雪が降る音は、果たして聞こえるのでしょうか。静かで切なく、そして温かな作品でした。 降り積もる雪と、やがて消えてしまう雪。その儚さが、大切な人との記憶や想いと美しく重なっています。 特に印象的だったのは、言葉で多くを説明せず、短い会話や情景から登場人物の心情を感じさせる表現力です。 そして、ポケットに残る缶珈琲の温もりが、物語に確かな存在感を与えていました。 雪の静寂の中に、聞こえなくなった声や、今も消えない想いが息づいているように感じます。 朗読によって言葉と言葉の間に生まれる沈黙さえも、物語の一部になることでしょう。 冬のテーマ「静かな時間。」を繊細に描き出した、深い余韻の残る作品でした。
〇油屋賞
「カウントダウン」 作:二宮白黒郎 様
高校生の少女とおばあちゃんが交わす、何気ない日常の会話。 その微笑ましいやり取りに、自然と頬が緩む作品でした。 テストの結果に落ち込む少女を、おばあちゃんは優しく、時にユーモラスな言葉で包み込みます。 しかし、その穏やかな時間の中には、いつか訪れる別れへの小さな予感も漂っています。珈琲は特別な出来事を演出するものではなく、二人の時間をつなぐ、当たり前の存在として描かれています。 誰かと飲んだ一杯が、いつか何より大切な思い出になることもあるのでしょう。 珈琲屋として、こんな時間に寄り添える一杯を届けたい。そう思わせてくれた作品でした。
〇優秀賞(順不同)
「深まりを味わう神無月」 作:シャブラン 様
秋の夜更け、珈琲を淹れ、本を開く。 そんな静かなひとときを、丁寧な言葉で描いた作品でした。 珈琲の香りが広がり、湯気が立ち上り、ページをめくる。何気ない動作の一つひとつから、ゆっくりと流れる時間が伝わってきます。 特に印象的だったのは、珈琲の苦味を、その夜の気持ちに寄り添うものとして描いているところです。 甘さだけではなく、苦味にも心を満たしてくれる豊かさがある。珈琲屋としても共感する表現でした。 物語の中の静けさと、自分自身が過ごす静けさが、少しずつ重なっていくような感覚も素敵です。 冬のテーマに対して季節は秋ですが、「静かな時間。」という本質をしっかりと捉えた作品だと感じました。 読み終えたあと、思わず自分のために一杯の珈琲を淹れたくなる、そんな物語でした。
「きみがいるから」 作:要よよ 様
冷たい冬の朝、窓を開けて吸い込む澄んだ空気と、温かな珈琲の香り。 冒頭から、その場に立っているような情景が浮かんでくる作品でした。 二人の間に交わされる言葉は決して多くありませんが、何気ないやり取りから、互いを大切に想う気持ちが自然と伝わってきます。 特に、珈琲を分け合い、寄り添いながら空を見上げる場面には、冬ならではの温もりを感じました。 寒さそのものは変わらなくても、隣に誰かがいるだけで、世界は少し優しくなる。 静かな時間とは、一人で過ごすものだけではないのだと改めて感じさせてくれます。 何でもない一日の始まりが、かけがえのない幸せに満ちていることを教えてくれる、穏やかで愛らしい作品でした。
「雪だるまは、珈琲の音を聴く」 作:Hiroki 様
雪だるまの視点から描かれる、静かで優しい物語。 目の見えない雪だるまが、音や香り、周囲の気配から世界を感じ取っていくという発想が、とても魅力的でした。 珈琲を淹れる音、椅子のきしむ音、誰かの足音。普段は意識しない小さな音が、物語の中で大切な役割を果たしています。 そして、雪だるまがいつか溶けてしまう存在であることが、穏やかな日常に切なさを添えています。 限られた時間の中で触れた優しさは、決して消えてしまうものではないのでしょう。 「聴く珈琲」という企画の魅力とも重なる、音を通して情景を描く表現が印象的です。 静けさの中に確かに存在する温もりを、優しく伝えてくれる作品でした。
おわりに
今回の作品を拝読して、改めて感じたのは、静けさにもさまざまな表情があるということでした。
大切な人と過ごす穏やかな時間。何気ない日常に隠れた幸せ。誰かを想う切なさ。そして、自分自身と向き合うひととき。
同じテーマでありながら、描かれる景色も、そこに流れる時間も、実にさまざまでした。
また、珈琲の存在も印象的でした。
物語の中心にある一杯もあれば、登場人物の傍らで静かに寄り添う一杯もある。
珈琲が持つ温もりや香り、そして誰かと時間を分かち合う豊かさを、皆さまそれぞれの言葉で表現してくださったことを嬉しく思います。
今回の審査では、物語としての完成度はもちろん、テーマとの親和性、珈琲の存在、そして朗読作品として声にしたときの魅力も大切にしました。
受賞作品以外にも、心に残る表現や、思わず読み返したくなる作品が数多くありました。
素敵な物語を届けてくださった皆さまに、心より感謝申し上げます。
一杯の珈琲を飲み終えるまでの、ほんのわずかな時間。
けれど、その時間に生まれた想いや記憶は、いつまでも心に残ることがあります。
「聴く珈琲」が、そんな小さな時間を誰かに届けるきっかけになれたなら、これほど嬉しいことはありません。
これから冬は、少しずつ深まっていきます。
寒い日には、温かい珈琲を片手に、物語の世界へ耳を傾けてみてください。
次はどんな景色に出会えるのか、どんな一杯が物語を彩るのか。
皆さまの紡ぐ、新たな物語を楽しみにしております。
ご応募いただいた皆さま、そして作品を楽しんでくださった皆さま、本当にありがとうございました。
それでは、また次の一杯でお会いしましょう。
サポートメンバー:Yuki様


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