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【#聴く珈琲_秋】9月

10月1日
読了時間: 5分

秋をテーマにお届けしてきた「#聴く珈琲」。 そのテーマは、「香り」でした。

豆を挽いた瞬間、お湯を注いだ瞬間、カップを口元へ運んだ瞬間。

珈琲と香りは、切っても切れないものです。

けれど今回届いた作品を読んでいると、「香り」はただ鼻で感じるものではないのかもしれない、と思わされました。

ある香りから誰かを思い出したり、もう存在しない場所へ帰ったり、季節の移ろいに気づいたり。あるいは、自分には感じられない香りを、誰かの表情から想像したり。 目には見えない「香り」だからこそ生まれた、さまざまな物語。

それでは、#聴く珈琲 8月分の選考結果を発表いたします。


▶9月の結果はコチラ「【#聴く珈琲_秋】9月」


〇最優秀賞

「珈琲の記憶」  作:Hiroki 様

雨の日、何度も窓を眺めながら「今日は出かけないのか」と尋ねる彼。テーブルには読みかけの本と、もう会うことのできない奥様が写った古いアルバムがあります。 主人公が珈琲を淹れ、香ばしい匂いが部屋に広がったとき、彼からぽつりとこぼれる「あいつも、珈琲が好きだったな」という一言。そして、それまで触れられなかったアルバムへ、ようやく手が伸びていきます。 この作品で描かれている香りは、忘れてしまった記憶と、大切な人との時間をつなぐものでした。 大きな出来事が起こるわけではありません。それでも、一杯の珈琲によって人の心がほんの少しだけ動いていく。その静かな変化と、「香り」「珈琲」「記憶」が最後まで一本につながった構成が、とても印象に残りました。



〇油屋賞

「もしまだ、ここに」  作:細雪 様

「もし世界から香りがなくなったら、どうなると思う?」 そんな何気ない問いから始まり、二人の会話は食べ物の味、季節、声、ぬくもり、そして過ぎ去った時間や記憶へと広がっていきます。 この作品の面白さは、香りそのものを描くのではなく、「香りがなくなった世界」を想像することで、逆にその存在の大きさを浮かび上がらせていることでした。 私たちが誰かや何かを覚えているとき、そこには知らず知らずのうちに香りも一緒に残っているのかもしれません。 読み終えたあと、思わず自分自身にも「もし世界から香りがなくなったら?」と問いかけたくなる。今回のテーマそのものを一歩深く考えさせてくれた作品として、油屋賞に選出しました。



〇優秀賞(順不同)

「わたしに欠けたもの」  作:ベン 様

珈琲があまり好きではない主人公にはその美味しさが分からない。そんな視点から始まることが、まずとても印象的でした。 自分には感じることのできない珈琲のおいしそうな香り。それでも、目の前のあなたの表情や言葉から、その人が感じているものを想像していきます。 そして物語は、いつしか「美味しい」という感覚と「嬉しい」という感情の違いへ。 自分には分からないものでも、誰かが感じているものを想像することはできる。完全には分かり合えなくても、その人の隣にいることはできる。 香りから、人と人との間にある「分からなさ」と、それでも寄り添おうとする気持ちまで描いた作品でした。


「そこにはどんな」  作:258 様

三十年余り暮らした家と、そこにあった一脚のロッキングチェア。 家は取り壊され、そこにあった景色も失われていく。それでも、器から立ちのぼる湯気や珈琲の香りから、「あの家」「あの部屋」「あの椅子」がよみがえります。 特に印象に残ったのが、「いまのこのわたしを造形したのはあの家なんです」という言葉でした。 場所そのものはなくなっても、そこで過ごした時間までなくなるわけではない。そして香りは、ときに失われた場所へ私たちを連れ戻してくれる。 珈琲の香りと「場所の記憶」を結びつけ、過去から現在の自分までを静かにつないだ、余韻のある作品でした。



おわりに

今回の作品を読み終えて感じたのは、香りは「今ここ」にあるものなのに、とても簡単に私たちを「いつか、どこか」へ連れていくものなのかもしれないということでした。

大切な人を思い出す香り。 失われた場所へ帰るための香り。 誰かには感じられて、自分には感じられない香り。 そして、「もし香りそのものがなくなったら」と考える物語。

同じ「香り」というテーマでありながら、これほど異なる物語が生まれたことが、今回の選考でとても面白く感じたところでした。 また、受賞には届かなかった作品にも、夏から秋へと移り変わる空気や、珈琲とともによみがえる音楽や過去の記憶など、それぞれに違った「珈琲の時間」が描かれていました。

ご参加いただいた皆さま、本当にありがとうございました。


秋の終わりに。

これで、「秋」をテーマにお届けしてきた「#聴く珈琲」も一区切りです。

季節は少しずつ進み、温かな珈琲と、その湯気や香りが似合う時間も増えてきました。

そして今回選ばれた作品たちも、これから朗読というもうひとつの形になって、皆さまのもとへ届きます。

文章で読んだときには見えなかった景色が、誰かの声によって見えてくることがあります。文字では何気なく通り過ぎた一言が、耳から届いた瞬間、心に残ることもあります。

今回の物語たちが「声」になったとき、どんな香りや景色を見せてくれるのでしょうか。

ぜひ珈琲を一杯用意して、その時間を楽しんでいただけたら嬉しいです☕️


そして、季節はまた次へ。

次回の「#聴く珈琲」も、どうぞお楽しみに。



サポートメンバー:Yuki様

 
 
 

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